米国から投げかけられた「アジアの集団防衛体制」論
Foresight World Watcher's 7 Tips

石破茂首相が就任直前、米ハドソン研究所に寄稿した「アジア版NATO」は多くの論議を呼びました。地域情勢を踏まえた観点からも、あるいは日本国憲法との整合性の面からも現実味は薄い構想であり、専門家の多くは批判的な立場を取っています。
その批判の根拠には、しばしば「SEATO(東南アジア条約機構)の失敗」が挙げられます。冷戦期の反共軍事同盟として1954年に結成されたSEATOは、加盟国の足並みが揃わず77年に解散。アジアの安全保障体制は、米国との二国間同盟が束になる現在のハブ・アンド・スポーク型が基調になりました。
ただ、この体制はアメリカが“ハブ”としてアジアの防衛において多くの負担を担うことが前提です。「そんな負担はもう嫌だ」との意識がアメリカにおいて高まれば、「アジアに集団防衛体制を」との声が浮上する余地も生まれるでしょう。今回取り上げたイーライ・ラトナー氏(バイデン政権のインド太平洋安全保障問題担当国防次官補)の論考は、そうしたバランスの上に立っています。
「オーストラリア、日本、フィリピンとアメリカの間で太平洋防衛協定(Pacific Defense Pact)を築け」とのアイディアには批判の余地がありそうですし、「NATOのような汎地域的な安全保障組織は必要ない」と明言されてもいるのですが、米-アジア諸国の二国間同盟について「米軍が地域における優位性を維持し、中国からの脅威が限定され、米国同盟国の潜在的な貢献が自国の自衛に限定されている限り、戦略的にも政治的にも持続可能であった。しかし、これらの条件は今日ではどれも当てはまらない」と分析していることは強調されるべきものです。
ほかにエルドアン政権への批判が広がるトルコ情勢、世界経済に広がっているシャドーバンキング(従来の規制の対象外になる「影の銀行」)リスク、米ハーバード大の留学生受け入れ禁止問題など、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事7本。よろしければご一緒に。
The End of Erdogan【Henri J. Barkey/Foreign Affairs/5月29日付】
「ポピュリストにして権威主義的指導者であるトルコの[大統領]レジェップ・タイイップ・エルドアンは今、政治的存続を賭けて戦っている。3月19日未明、[略]将来の大統領候補と目されていた政敵、[人気のあるイスタンブール市長、エクレム・]イマモールは逮捕され、汚職とテロリズムという根拠のない告発を含む極めて疑わしい容疑で起訴された。公の場での集会は禁止されていたにもかかわらず、この逮捕はトルコで過去10年以上最大の反政府デモを引き起こし、国内の大半の地方に広がった。 イスタンブールでは100万人以上が参加したデモもあり、その多くは若者だった」
「これほど多くの若いトルコ市民がエルドアン大統領に反対するデモを敢行したという事実は、エルドアン大統領の人気の取り返しのつかない低下を反映している。若者たちが知る唯一の指導者として、かつて彼は永遠であり、人生の事実であるかのように見えた。しかし、もはやそうではない。彼自身の失策が彼を破滅に追い込んだのだ」
「イマモールは獄中にいるが、追い詰められているのはエルドアンの方だ。エルドアンにとって最も重要なのは、大統領の任期を延長することである。憲法上、大統領の任期は2期までと定められており、その任期は2028年まで。しかし、不人気の深刻化により、憲法を改正したり、早期の選挙を強行したりする力は弱まっている。今から4年後、エルドアンがトルコの大統領でなくなることはほぼ間違いない」
米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに5月29日付で登場した「エルドアンの終焉」は、米リーハイ大教授にして米外交問題評議会(CFR)中東研究担当非常勤上席研究員であるヘンリ・J・バルケイによる論考。彼は現状を次のように紹介する。

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